インドネシア生活

【書評】村上龍:希望の国のエクソダスを海外で読んだら予言書並みに当たってた

こんにちは、せんちょうです。

 

先日Amazonで購入した村上龍の本を読みました。

インドネシア在住者がAmazon Globalを使って日本から配送してみた。どうも、さすらいの輸入業者せんちょうです。 海外在住が長くなると、日本で売っているものが恋しくなりますよね。 一時帰...

 

「希望の国のエクソダス」と言う本です。

2002年頃に書かれた小説ですが、2018年に読むと作中で言ってることが当たってる内容でとても面白く読破しました。

そこで感想なるのものを書いてみようと思い、僭越ながら書評と題してしたためるわけです。

せんちょう
せんちょう
夏休み宿題の感想文もロクに書いたことないのに

人って成長するものですね。

 

 

どうしてもネタバレ嫌だって人は、ここから読まずに閉じてくださいね(^ ^)

ほとんどネタバレしてます。

けど、ネタバレした後でも楽しく読めるかなと思います。

ポイントはあくまで、2002年当時の村上龍の考えたことを2018年に答え合わせしてみたって感じです。

 

あらすじ

 

・中学生が日本全国で集団不登校を始める

・そいつらはインターネットビジネスを通して巨大な企業へと成長していく

・一方日本政府は円(JPY)を中心とした”アジア通貨基金”の政策を打ち出す

・アジア各国(特に東南アジアなど)の通貨危機に対するものとして機能させる構想だった

・その円が巨大投機機関から狙われる(空売りとかナントカでガンガン価値が下がっていく)

・中学生たちがその危機を救う

・勢い余って中学生たちは北海道へ移住(一応ちゃんとした理由がある)そんで、あたらしい街を作る

 

僕は金融経済のことは全くわからないので、通貨基金の件なんかは間違っていたらごめんなさい。

とはいえ、金融オンチの僕でも小難しいところは流し読みで十分楽しめました。

 

 

とりあえずの感想

 

2002年当時、僕もまさしく中学生で、前年の9.11の余韻や日韓W杯などで日本がてんやわんやしていた記憶があります。

その当時の自分と登場人物である中学生たちを比べて、「超ハイスペ」じゃんって読み進めてましたw

 

物語の構造としては、2002年当時の社会問題を幅広くモチーフにしたフィクションです。この小説を2002年に読んでいたら、ドキュメンタリーのようでもあり近未来SFのように感じ取ったでしょう。

 

しかし2018年現在読んでみたら、村上龍が言っていることが結構実現されており、非常に”リアリティ”を持って読むことができました。

 

村上龍の予言力すげぇ!!っていうより、”取材力”や”情報収集力”が卓越していたんだと思います。

せんちょう
せんちょう
ではさっそく物語の中で出てくる2002年のモチーフが、2018年の現実社会においてどう実現されているか見ていきましょう

 

中学生の起業

物語では、集団不登校になった日本全国の中学生がインターネットを駆使して会社を興します。

ネット上に巨大なコミュニティを作ってみんな子供で暇なので、いろいろ仕事取ってくるようになります。

その分野はケーブルテレビのコンテンツ配信や、ネットセキュリティのハッキング、投資会社など多岐にわたる。

2018年現在、若者の起業は珍しいことではなくなりましたね。

大学生の起業がブームになりましたが、いまでは高校生や中学生でも”スキル”さえあれば起業できています。

もっとも彼らは”起業”をしたいのではなく、”なんか自分の商品やサービスを作っていたら会社作っちゃった”ってように感じます。(特にWebサービス・アプリケーション開発など)

情報技術分野では、設備コストがそんなにかからないので少人数・低予算でもサービスを作れます。昔のように資本家集めて「労働力と機械設備に投資してみんな一斉にものづくり」ってスタイルとは違いますね。

インターネットコンテンツ配信

中学生たちは小型のビデオカメラを携え、大手報道局よりもいち早く現場に駆けつけ動画を撮影するようになります。

それをヨーロッパのメディアに売る契約をしてだんだんと会社も成長していきます。

ポイントは日本のメディアの顔を伺うことなく、”自分たちのメディア”を展開していくというところです。

2018年でいえば、まさに“YouTube”にあたりますね。
各個人が自分の価値観で好きなように情報を発信していきます。

学校とは別の教育機関を設立

中学生たちは、学校に行かず自分たちの好きな勉強をするようになります。

また不登校の生徒が勉強できる場所を与え、大人たちに講師になってもらいます。

作中では職業能力開発校のようなものを設立しています。

そこでは英語・生物学・情報技術なんかを教えていて、さながらシリコンバレーの教育機関のようです。

 

2018年現在ではインターネットコンテンツの発達により、自分の好きな学習を選択できるようになっています。

もともと昔から放送大学のようにメディアを通しての学習コンテンツはありましたからそんなに目新しいものではないかもしれません。

ただ従来のような受験勉強みたいに本人たちが”イヤイヤ”勉強するのではなく、自分がやりたい学習を選択していけるインフラがインターネットによって整えられたのかなと感じます。

受験勉強だけだと履修範囲の制限などがあり、僕のような頭でっかちデクノボウ人間を量産してしまいますしね。

 

円経済圏(アジア通貨基金)

作中では、1997年に起きたアジア通貨危機の再現を防ぐべく、円を中心としたアジアの経済圏を築く。

その円が投機筋に狙われ空売り対象となり、どんどん円の価値が下がっていく。

私せんちょうは金融経済を理解していないのでアレなんですが、

アジア各国の不安定な対ドルレートを安定させるために、円がドルとの間に入りバッファ(緩衝)するようなものかなと。。スワップとかってのもこういうことなんですかね?

(詳しい人いたらコメントしてくれると嬉しいです。)

現実社会では2018年現在、円によるアジア通貨基金は実施されていません。

けれど円に変わって、2014年に中国主導による”アジアインフラ投資銀行:AIIB”が設立されています。

開発銀行としての色が強いのでバッファ材のような特性はなく、中国が「オラオラ、金貸すからどんどんインフラ作れぇええ」とキャッシュをばら撒く機関のようです。

けれども、人民元を中心とした一種の経済圏形成を示していることは間違いありません。

中国の一帯一路政策—wikiリンクに飛びます

 

カップルの資産

ちょっと難しい経済の話が続いたので、ライトな恋愛の話題にも触れてみます。

 

作中の主人公である男性記者はバツイチで、現在同じく記者である彼女と同棲しています。

同棲するにあたって、お互いの収入を明らかにしてバランスシート(貸借対照表)を作成しています。

そこからやりくりして月1回のデートで高級料理を楽しむ描写があります。

上記のように書くと、彼女と金の話でケチケチするなと言われそうですがww

僕が印象的に感じたのは、男女の関係を語るときに経済用語を使って関係性を表現する作家は珍しいなと感じました。

 

村上龍はバブル期の女性たちの描写も得意で、派手な文章を書いています。

 

経済観念が破綻しているような女性を表現することもできれば、経済用語を使って女性を表現することもできる村上龍。なかなか痺れる文を書くなぁという印象です。

せんちょう
せんちょう
外見は持てなさそうなんだけどね。魅力があるんだろうね

地方移住

ネット起業に成功した中学生たちは、北海道へ移住計画を立てます。

そこで、市町村合併を行い、インフラを整備して新しい社会を形成していきます。

特に供給するエネルギーは風力発電を利用している描写があります。

また、作中では「日本の田舎の自然風景。これしか日本が持っている資源が無い」というような描写もあります。

近年話題になってる、地方再生・エコエネルギーのトピックですね。

2007年に夕張市の破綻など地方の財政破綻が起き、その後どう再生していくかに注目が集まりました。

2018年現在の若者が地方に移住する動機はやや作品とは趣が違いますが、地方での起業する人も増えているようです。また個人的には日本の地方自治体が東南アジアへ積極的に視察しているムードが感じられます。(ただの外遊で終わらなければいいんですがw)

 

地域内でのみ通用する通貨の発行

中学生たちは日本国”通貨”に対しても疑念を持つようになります。

”通貨”自体に価値はなく、”通貨”が使えるような”信用”に価値があると言っています。。

そこで自分たちで”信用”を作ってしまえばいいと、最終的に北海道の新しい市町村内にて通用する”電子地域通貨”を生み出します。

ハイ来ました。まるっきり仮想通貨のことですねw

作中では”地域通貨”として限定した地域内で発行量をコントロールしながら通貨の”信用”を担保するように書かれています(間違ってたらゴメン(>人<;))

現実の仮想通貨は”地域通貨”としての側面はありませんが、”マイニング”(極小確率のガチャみたいなもん)と発行量制限により”仮想通貨の価値”を担保しているので似てるっちゃ似てますね。

※現代の通貨もとい紙幣・貨幣なんてものはただの”引換券”なので、気合い出せば”誰でも通貨はつくれる”んだと思います。

 

話がずれましたww

個人的には、この地域通貨発行の件が面白かったですね。

何を隠そう2018年初からの仮想通貨大暴落で損したワタクシ。

人ごとではありませんでした。

せんちょう
せんちょう
買った翌日に大暴落だぜ!!

 

と上記のように、作中で記載されていることが結構現実で起きてます。

予言書とまで言うとマユツバですが現代日本の問題点をモチーフにしているため、「例えば村上龍ならこう言う切り口で解決策を提案してるよ」くらいに読んでいくと楽しめるのでは無いでしょうか。

そのほかのピンときたくだり

その他、僕の中で「おぉ、これは、まさしく・・」とピンときたフレーズを挙げてみます。

 

せんちょう
せんちょう
例によって一言一句覚えてるわけじゃ無いからニュアンスで補填してな!

自分の目上にはペコペコして、目下のものには偉そうにする。

中学生たちが不登校や起業をはじめとしたアクションを起こした動機の一つでもあります。

僕も、あーそうだよなーと思うこともあるし共感できましたね。

ただし気をつけたいのが、インドネシアで働くと若いうちから会社組織の管理職を任されることもあります。

その時に自分もエラっそうにしてたらダセェので、自戒の念を込めて日々自省しつつ精進していきたいですね。

 

日本人全体が「わからないことがあると気づいた」

せんちょう
せんちょう
ソクラテスかよw

 

作中では日本のメディア論に対して述べられていた件だったと記憶しています。

 

僕の共感としては、知ったかぶりして「ごめん、よく分からない」って素直に言えない人ってたまにいるよなーというスケールのちっちゃいものでしたw

 

 

日本の大企業は海外へ拠点を移しはじめた

これも叫ばれて久しいですね。確かに海外進出する企業はたくさん増えました。

ただ海外に住んでる僕が感じるのは、

”海外へ拠点移しても、日本人自身の考え方を柔軟に変える必要があるのではないか”と言う点です。

日本からの役員が現地へ赴きトップダウンで現法をコントロールしていく。

ギャーギャー言って偉そうにしている横で、したたかな現地企業がどんどんのし上がっていく。日本製品のコピーだなんて揶揄されるけど精度の上がったコピーはオリジナルを超えていく。

「考え方を柔軟に変える」などと偉そうに言いましたが、”日本製品は偉いから”だけでは海外展開も限界があるのではないでしょうか

 

まあ読んでみてください

この作品で、村上龍は「日本古来の習慣的なもの」に対して幾分かの嫌悪感があるように書いています。たぶん読み手を選ぶ作品だと思います。

年配の方が読んだらイラっとするかもしれないし、若者が読んだら感銘を受けるかもしれない。未成年が読んだら「そんなの当たり前でつまんないよ」って感じるかもしれない。

 

いろんな世代へ問題提起してる作品です。

 

また村上龍節も健在であり、あとがきにて「俺は中学生に日本の未来を期待しているわけでも無いし、誰にも期待しない」と締めてます。

せんちょう
せんちょう
ニクイね

 

2018年の今だからこそ読み応えのある小説でした。

 

せんちょうのひとこと

せんちょう
せんちょう
村上龍は絶対体育会系とか嫌いだろうな。だがそこがいい。

本を読んだ感想などもコメントしてくれると嬉しいです!!

 

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